「鼻」にまつわる発声用語いろいろpart2
このシリーズでは「鼻」が関係するボイトレ用語を4つの記事で解説しています。
【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?
【鼻 2/4part】「鼻に○○る」など発声用語まとめ
【鼻 3/4part】開鼻声と閉鼻声って何?治せる?
【鼻 4/4part】ネイザル、トゥワング、鼻腔共鳴(執筆中)
「鼻にかかる」をはじめとして、「鼻」にまつわる発声用語はたくさん聞きますし、筆者もレッスンで良く使います。なぜ良く使われるかというと、発声を改善するヒントが「鼻」の周辺にたくさん隠れているからです。この【鼻シリーズ】で扱う用語を以下のイラストにザっと並べてみました。この中で聞きなれない言葉に関しては筆者が考案して使っているものです。それぞれが「どういう状況で何のために使うのか」説明していきましょう。各項目について詳しく解説した記事がある場合はそれも紹介します。
※各所イラストと音声サンプル追加準備中です
すべてに共通するのは「喉ちんこ」の位置
全部に共通する重要なカギは「喉ちんこ」です。それが「下がっている」のか「上がっている」のか、大きく分ければ2パターンの状況しかありません。そしてそれぞれがお互いを中和する反対の作用を持ち、発声のバランスを取るアイテムになります。
1/5 鼻にかかる/鼻にかける
=喉ちんこの位置は”下“
一番良く聞くのはこの「鼻にかかる/鼻にかける」でしょう。前者は意図せず”かかってしまう“症状なのに対して、後者は意図的に”かける“ことで発声を調整する作業になります。両者とも「喉ちんこが下り気味・完全に下りている状態」になります。
(1)鼻にか“か”る
「鼻にかかった声」は“ハッキリしない声”“モコモコした声”“ねっとりした声”などのイメージです。下りてきた喉ちんこが口腔への通り道を狭めることで、多くの声が鼻腔に流れます。鼻から聴こえる声は遠回りになるので、上記のような不明瞭な声になります。これをクリアに発声するためには「喉ちんこを上げる」こと、つまり後述の「鼻に溜める」作業がヒントになります。
【VMW版】記事:第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
(2)鼻にか“け”る
「鼻にかける」のはあえて「鼻にかかった声」を作る発声作業です。①”ぽわっとした柔らかい声“や”けだるい感じ”を出したい場合や、②”固く張った大きい声“しか出せない場合の柔軟剤・中和剤として、そして③”カサつく声“や”声が散る感じ“をまとめてくれる粘着剤・片栗粉のような役割として使われます。ミックスボイスを作る時にも重要なアイテムです。以下の記事では、上記②に対する解決策としてトレーニングメニューを紹介しています。
【VMW版】記事:第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2/5 鼻に抜ける/鼻に通す
=喉ちんこの位置は”下“
これも、意図しない「抜ける」と、意図的な「通す」の違いであり、状況は「鼻にかかる/鼻にかける」とほぼ同じです。
(1)鼻に抜ける
「抜ける」のニュアンスは”空気感“にあります。良く「ワサビがツーンと鼻に抜ける」と言いますが、吐息成分の多い「ウィスパーボイス」が「鼻にかかる」と、実際に声だけでなく空気も鼻腔に流れる感覚になります。それから後述する「開鼻音」もこの状況になります。
(2)鼻に通す
①「鼻にかかったウィスパーボイス」は、吐息の脱力感と鼻音の不明瞭感のダブル効果で”柔らかい声“にすることができます。②鼻腔の位置まで発声の重心を高くしたい時や、③ウィスパーしながら「共鳴(広がりのあるウェットな響き)」を作りたい時など、「呼気(吐く息)」の流れを鼻腔に作りたい時に「鼻に通す」感覚が役に立ちます。
3/5 鼻が詰まる/鼻に溜める
=喉ちんこの位置は”上“
これも意図しない「詰まる」と意図的な「溜める」の違いです。「喉ちんこが上がった状態」は鼻が詰まったような感覚を生みます。
(1)鼻が詰まる(感じ)
風邪や鼻炎の時の鼻詰まりの感覚は、喉ちんこを上げ過ぎたことによって生れます。喉ちんこが上がって鼻腔への空間をふさぐことで、本来鼻腔に抜けなければ発音できない「m行」「n行」「ng行」は特に発音しづらくなります。このような状態を発声で再現してしまっているのが「鼻が詰まる(感じ)」で、上記の症状の他に、”固く張った大きい声“しか出せない症状も見られます。解決策は「鼻にかける」です。
【VMW版】記事:第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
(2)鼻に溜める(あくびする)
鼻に詰まった感じをあえて作るのが「鼻に溜める」です。何を溜めるかと言えば「共鳴(広がりのあるウェットな響き)」であり、”共鳴を鼻腔に閉じ込める“要領です。共鳴は喉ちんこが上がって、喉仏が下がった状況で作られるので、このような器官の動作を必要とする時に役に立ちます。その1つが「鼻にかかる声」を治したい時です。
「あくびをする」も似た発声調整作業になりますが、その効果はあくまで”自然なレベル”です。
【VMW版】記事:第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
4/5 鼻を鳴らす・鼻に当てる
=喉ちんこの引き合い
これが一番曖昧な表現であるにもかかわらず、一番バランスを取りやすく、根本的に重要な発声動作になります。「鼻に当てる」も「鼻を鳴らす」もだいたい同じ作業になりますが、状況によってニュアンスを使い分けています。重要な体の状況は「喉ちんこを上げる力と下げる力で引き合っている」ことにあります。これに関する詳細は、まず以下の記事をご確認ください。
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
これが「当てる」と「鳴らす」にどう関係するかを説明します。長いけど……
『「喉ちんこの引き合い」をしてバランスが取れているときには、喉ちんこで生まれた“ハリ”が「声帯」にも伝わり、このハリを受け取った声帯は力みのない、かつ、しっかりとした振動を始める。それは骨を伝う「骨振動」となり、上顎から鼻骨にかけて感じることができる。この骨振動が「鼻が鳴っている感覚」であり、これを意図的に作ろうとする発声動作が「鼻を鳴らす」となる。そしてこれを声帯から鼻先まで届けようとする発声動作が「鼻に当てる」である。』
……となります。この振動を増幅できたとしても、それを各所に(特に鼻先に)運搬できないと不完全な動作となることがあるので、このように違うニュアンスの言葉を用意しています。そしてこの動作にまつわる更なる知識や意識については以下に箇条書きでまとめてみます。
・この振動が増えれば増えるほど明るい“ツヤ”のある声になる。
・この振動を増やすには「喉ちんこの引き合い」で“ハリ”を増やす。
・この明るい“ツヤ”の響きこそが「倍音」と呼ばれるものである。
・倍音は「地声の成分」となり、裏声を地声らしく鳴らす「ミックスボイス」の材料となる。
・地声は「声帯を閉じる力」ではなく、「声帯を⇒鼻を鳴らす」ことで作るべき。
・上記が力づくで「喉声」にしないためのコツの1つであり正解である。
以上を見て“点が線で繋がった”と感じる人もいることでしょう。また後日それぞれについて詳しく解説しましょう!
5/5 鼻音4人家族と「鼻に〇〇る」
おまけに整理しておくと、「ま/m行」「な/n行」「が/ng行」の鼻音3兄弟と母である鼻母音は次のニュアンスで表現されることがあります。
「m=鼻に抜ける」
「n=鼻にかかる」
「ng=鼻にかかる」
「母=鼻にかかる」
……です。全部まぎれもない「鼻音」ですが、このように「喉ちんこが関係するか否か」で捉え方を変えておいてもいいでしょう。
今回は以上です。他の記事も要チェック!
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