【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?

「鼻」にまつわる発声用語いろいろpart1

 このシリーズでは「鼻」が関係するボイトレ用語を4つの記事で解説しています。

【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?
【鼻 2/4part】「鼻に○○る」など発声用語まとめ
【鼻 3/4part】開鼻声と閉鼻声って何?治せる?
【鼻 4/4part】ネイザル、トゥワング、鼻腔共鳴(執筆中)

「鼻音」とは?

 まず一般的に話題になる「鼻音びおん」とは「鼻の穴から聴こえる音」だと思っていてOKです。これをしばしば”鼻にかかる”、“鼻に抜ける”と表現します。聴こえる音を文字に起こすと「ん~」になります。
 一番分かりやすいのは「口を閉じたハミング」です。口を閉じた状態で「ん~」と発音してみてください。通常は口から出ていくはずの音声は、唇が閉じていることによってUターンをし、鼻腔の中を通って鼻の穴から出ていくしか通り道がない状態になります。これが声が“鼻に抜ける”という現象です。ちなみにこの「口を閉じたハミング」は「mえむハミング」と言います。他にも鼻音と呼ばれる発音・発声がありますので、他にどんなものがあるか見ていきましょう。


ハミングから理解する鼻音

全部「ん~」だけど違う音

 鼻音を理解するために「ハミング/ん~」で考えていくと、ボイトレ的に見ても実用的になります。
 「まん~ま」「なん~な」「がん~が」を発音してみてください。それぞれの「ん~」の部分はどれも完全な鼻音になっていて、しばしば「ハミング」と呼ばれますが、実は3つとも身体の状況も音声も全部異なるものです。これら3つの鼻音は、日本語話者には全部「ん~」に聴こえるし、書くときも「ん~」としか表記できませんが、例えば韓国語話者はこれら3つの「ん~」を聴き分けることができ、それぞれに「ん~」ではない表記方法が割り当てられています。試しに順番にハングルを混ぜて書くと「まㅁ~ま」「なㄴ~な」「がㅇ~が」になりますが、英語で書いたら「まm~ま」「なn~な」「がng~が」です。このように書けば勘の良い方はピンと来たと思います。

 日本語話者にとっては全部「ん~」と聞こえてしまう原因は、まずもってこれら3つを書き分けないからです。普段同じ文字で「ん~」と書くもんだから、音としての違いも聴き分けないまま育ってしまいます。日本語にこれらを書き分けるシステムがないのは、ボイトレ的に見れば結構な弱点と言えますね。まずはこの3つ「m」「n」「ng」を見ていきましょう。

「m」「n」「ng」の鼻音3兄弟

 まず皆さんに一番身近に関係するのは、「ま/m行」「な/n行」「が/ng行」の3つの鼻音です。

それぞれ1つずつ見ていきましょう。

①「mハミング」
 口を閉じた状態のハミング。言語学上の分類では口を閉じた「ん~」は「m~」であり、これを「mえむハミング」と言います。「m~」から「あ~」に繋げると「ま/m行」の発音になります。(「ぱ・ば/p・b行」も唇を閉じる形なりますが、これらは息の破裂を伴うので、鼻音とは違う分類になります。)

②「nハミング」
 口は開けて舌先を上の歯に当てた状態のハミングでも「ん~」になりますが、先述の方法で表記すると「n~」になり、これを「nえぬハミング」と言います。「n~」から「あ~」に繋げると「な/n行」の発音になります。このとき、舌先が歯の裏に当たるだけではなく、喉ちんこは下り、盛り上がった舌奥したおくとくっつきます。(ちなみに、舌先が歯の裏に当たる他の発音には「た・だ/t・d行」と「ら/r行」がありますが、これらは舌奥は盛り上がらず、喉ちんこは下りてきません。)

③「ngハミング」
 口は開けて舌奥したおくと喉ちんこをくっ付けた状態のハミング。言い換えると喉ちんこが下りた状態です。慣れないと動作としては理解が難しいと思いますが、「あこ」の「ん」で止めるとこの状態になります。先述の方法で表記すると「ng~」になり、これを「ngえぬじーハミング」と言います。「ng~」から「あ~」に繋げると「んが/ng行」の発音になり、鼻音の中でもこれを「鼻濁音びだくおん」といいます。この「ngハミング」はボイトレにおいて特に重要な役割を果たします。(「か・が/k・g行」もこの位置になりますが、これらは息の破裂を伴うので、鼻音とは違う分類になります。)


鼻音は「子音3つ+鼻母音」の4種類

「子音」では3つある

 上記で説明したのは「ま/m行」「な/n行」「が/ng行」の3つですが、これらは「子音しいん」のタイミングが鼻音になる発音です。
 これを先述の「ま/m行」で説明します。「ま」は子音しいん母音ぼいんに分解して書くと「ma」です。鼻音なのは唇を閉じている「m」のタイミングだけであって、後続の母音「a」まで鼻音になるわけではありません。

でも「母音」も鼻音になり得る

④「鼻母音」=「鼻にかかった母音」
 上記のように、通常は後続の母音まで鼻音になるわけではないんですが、そうとも限りません。例えば「が/ng行」のときのような”喉ちんこが下りた状態“からの発声だと、後続の母音まで”喉ちんこが下り気味の状態“を引きづりやすくなります。これに限らず「喉ちんこが下がった状態や下がり気味での発音や発声」を”鼻にかかった声“と呼び、この場合は母音が鼻音なので鼻母音びぼいんといいます。日本語では5つの母音「a,i,u,e,o」それぞれが鼻母音になり得ます。

 発声に問題があって母音が”鼻にかかる“場合もあれば、発声のバランスを取るためにあえて意図的に母音を”鼻にかける“場合もあります。

……

鼻音まとめ

 このように「m」「n」「ng」の子音3つ+鼻母音、の合わせて4種類を「鼻音」と呼ぶことができます。(音声学上ではもっと厳密に決められていたりしますが、筆者はこの4つに分類してレッスンしています。)

鼻音、鼻濁音、濁音まとめ

 それと「鼻音びおん」というと、似ている用語で「鼻濁音びだくおん」と「濁音だくおん」も出てきますね。鼻濁音は滑らかで柔らかい「んが/ng行」で、濁音はハッキリ明瞭な「が/g行」のことを指します。この並びで良く引き合いに出される鼻音は「な/n行」です。これら3つは「n」と「g」の組み合わせで出来上がる子音で、喉ちんこが関係する発音だからです。「ま/m行」は唇を閉じることでできる鼻音なのでこの場合は仲間外れにされます。


 さて、ボイトレの現場では以上の分類が基本になりますが、医療現場では良く「開鼻声」「閉鼻声」という用語が出てきます。それから“鼻にかかる”“鼻に抜ける””鼻が詰まる“、”鼻にかける“”鼻に通す“”鼻を鳴らす“”鼻に溜める“など、鼻にまつわる用語はたくさんありますので、これらについても各記事をご確認ください。

 今回は以上です。他の記事も要チェック!
(各所イラストと音声サンプル追加準備中です)

 このシリーズでは「鼻」が関係するボイトレ用語を4つの記事で解説しています。

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