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この記事は「VocalMagazineWeb」にて連載している第65回:声の音色の“明るい”と“深い”の調整方法を解説!~合唱女子や声楽男子が陥るワナ~の関連記事です。
発声はそんなにシンプルじゃやない
クラシック/声楽界や合唱界では“深い”音色や“太い”音色が求められます。伝統的によくある指導者の声掛けは『あくびして~』ですが(2025年現在はまだあるあるかなと思います)、これによって起こり得る発声トラブルや発声の未完全さには、共通の特徴が見られます。
女声は声が「散る」、男声は「詰まる」「裏返る」
女声は特に声が“スカスカ”になったり、ただただ“暗い”音色に陥りやすくなります。男声は更に加圧しないとこれ以上出せ無さそうになる感覚=いわゆる「声が詰まる」状態や、声が裏返る症状が出ます。これらは換声点で特に問題になる症状で、もれなく『あくびして~』が原因です。
今回はこの声掛けがもたらす功罪を言語化解説します。主席卒業するような同期はなぜ良い発声になっているのか?が分かり、ご自身の発声も改善できると思います。
伝統的によくある声掛けは『あくびして~』
そもそもの指導の流派というか伝統的によくある声掛けが『あくびして~』です。これは“深い”や“太い”音色を作る材料である、「喉頭下げ」と「共鳴生成」の作業を誘発するためのものです。
結果的には“深い”や“太い”声にすべき
実際にノーマイクで歌うことが求められるこれらのジャンルでは身体をフルに使うために、響かせれる部分にはマックスで響きを埋める必要があります。人体のフル機能を追求した結果が“深い”声や“太い”声です。ただ、「響き」と聞くと「共鳴」だけが思い浮かびませんか?「倍音」も歌声の2大響きの1つです。
ボイトレは5つの「成分」で完成できる
筆者はいろいろなボイトレアプローチがある中、「歌声成分」で説明します。一番“手っ取り早い”からです。「吐息」「共鳴」「倍音」「鼻音」「エッジ」の5つで発声は完成できます。

求めている音色によって配合バランスは変わるものの、全部が材料として必要です。
あくびは「喉頭下げ」と「共鳴生成」の誘発
『あくびして~』は、言い換えると5つの成分のうち「共鳴」しか誘発できないアイテムです。“深い”音色や“太い”音色は「共鳴」がメインになるバランスです。なのでみんなこぞって「あくび」するし、させようとします。深い共鳴生成には「喉頭下げ」が必要でこの2つはほぼ同義です(VMW版で解説してます)。
問題は「あくび」しかしない/させないこと
問題は「あくび」ばかり意識するということです。これを料理に例えると、カレーを作るのに5つの材料が必要なのに、水ばかり足しているような状況です。(1:ASDの特徴がある方は例え話は読み飛ばしてください)(2:一連の連載で発声を料理に例えていることがありますが、他のシーンではカレーの水を「吐息成分」としたり、ケースバイケースです)
女声は声が「散る」、男声は「詰まる」「裏返る」
ルーより水が多いバランスのカレーは“シャバシャバ”になりますよね。これが女声で良く起こる「声が散る」状態。そのシャバシャバを改善するためにさらにルーと火力を加えて、煮詰めすぎたり鍋から溢れるのが男声の「詰まる」「裏返る」状態です。
女声には「鼻音」と「倍音」が重要になる
これを改善するのに女声では「鼻音」と「倍音」の成分が必要です。両者は地声の材料であり、声の芯を埋める役割があります。ピンとこない方はVMWの連載をご参照ください。「共鳴」は声の広がり担当、両者は声の芯担当、両方必要です。
男声には「鼻音」と「倍音」「吐息」が重要になる
それに対して男声はもともと地声が鳴りやすい身体構造なので、声門閉鎖は勝手に強くなりやすいです。その結果、過剰閉鎖になる可能性が高くなるので、声門閉鎖を「倍音生成」に置き換える意識と、閉鎖の中和剤になる「吐息」成分で声帯を離す感覚が少量あると良かったりします。これらもVMWの連載で既に解説済みです。
必要成分を揃えて持つ人が“優秀”になる
“発声はバランス”なので、結局のところこの5つの成分を揃えて持っている人が優等生になります。無意識で持っていれば天才、理論を知っていてできているなら秀才です。ただ、業界的に理論的よりは感覚的な人の方が圧倒的に多いため、現状は“たまたま”5つ持っている人が秀でる世界です。当然指導も感覚的であり(少なくとも僕から見たら)、本来指導で補えるはずの能力が現状はほとんど本人任せとなっています。「できなければ個人のせい」って、ものすごい無責任なことです。指導者が「あくびして」以外を持ち合わせていないのはマズいことです。
歌声成分は全部必要
5つの歌声成分は全部必要ですが、特に声楽や合唱の世界では「エッジボイス」に関しては無縁に思われがちです。でもエッジボイスには「抵抗圧」の役割を含んでいるので、実際にサウンドとしては不要なものの、感覚としては必要不可欠と言えるものです。「閉鎖圧」より「呼気圧」、それよりも「抵抗圧」。これも連載で解説しましたが、ハイエネルギーが必要なこのジャンルにおいてはむしろ抵抗圧がかなりのカギになります。
喉頭位置はオプション、だが?
喉頭位置に関しては発声においては最終的にはオプションです。「上げたきゃ上げれば良いし下げたきゃ下げればいい」。でも、このジャンルにおいては下げるのが必須と言ってもいいです。深い共鳴のためには下げる必要があります。でもでも(笑)、「共鳴生成」って「喉頭下げ」による「共鳴腔の拡大」よりも、「共鳴量の充満」の方が大事です。声の密度を上げるためには拡大より充満。これも解説済みなので、リンクは割愛しますが該当記事をご参照ください。
“深い”には“明るい”材料が必須になる
“深い”声のためには、その反対にある“明るい”声の材料も必要になるという内容でした。実際に「共鳴」と「倍音」は共存できるものであり、両者が強力して良い声になるのです。その中で共鳴が優勢のバランスになるとクラシカルな響きに、倍音が優勢だとポップスらしい響きになります。吹奏楽でも倍音を豊かに出しやすいサックスなんかはポップスでも大活躍していますよね。その点相性が良いのかもしれません。
以上です:)この記事は「VocalMagazineWeb」にて連載している第65回:声の音色の“明るい”と“深い”の調整方法を解説!~合唱女子や声楽男子が陥るワナ~の関連記事でした。
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