”息漏れ声“の市民権
ファルセット・ウィスパーボイス、この2つの声区の扱いについて歴史的な背景を説明します。

(1)ファルセットは未発達の裏声
「ファルセット」とは息混じりの裏声のことですが、かつては“未発達であるがゆえに意図しない息漏れが発生する裏声”という風にネガティブな捉え方で使われていました。これは、当時のボイトレと言えば“オペラなどのクラシック楽曲を歌うため”のものであって、音楽ジャンル的に声量の大きさがかなり重要視されていることに起因します。
息漏れがあるということは、その分声量に変換しないまま放出していることになります。裏声は鍛えないと意図しない息漏れが起こりやすく、現在でもクラシック界ではファルセットはタブー視されています。クラシック界で目標とされている裏声は“完全なヘッドボイス”です。
(2)ウィスパーはポップス発声
地声は日常会話で頻繁に使われる発声なのでそもそも息漏れが起こりづらい発声です。なので上記の理由で言うと、クラシック界ではそもそもウィスパーボイスの概念自体が希薄です。話題に登ることはほぼ無いでしょう。
さて、舞台から生身で歌声を届けなければならないクラシックとは違い、それ以外のポップス音楽ではマイクを使います。マイクとスピーカーの登場と発展により、自分でそこまでの声量を出す必要は無くなりました。これにより、声量が出ずらいファルセットやウィスパーボイスでも市民権を得ることができ、今では1つの音色として積極的に歌唱に取り入れられています。
(3)“息漏れ声”は“息混ぜ声”に
とはいえ”意図しない息漏れ“は問題です。ファルセットもウィスパーボイスも”息漏れ声“ではなく”息漏らし声“”息混ぜ声“として積極的にコントロールして使いましょう。