声門閉鎖圧の「位置と張度」のパターン12個を解説【VMW版-補完】

声帯動作の完全なコントロールを目指して

 この記事は、VocalMagazineWebにて公開している連載、第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!  の補完記事になります。当該記事は倍音シリーズの延長線で、声門閉鎖せいもんへいさの「位置と張度ちょうど」問題について解説しています。

 声帯のパワー=声門閉鎖圧はただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールはできません。「ベルヌーイ効果」や「喉ちんこの引き合い」による倍音生成がこれにどう関わってくるのかにも触れますが、そのほか「喉締のどじめ声」の改善や「ウィスパーボイス/ファルセット」のコントロールに困っている方は必読です。

声帯の「位置」と「強度」

声帯の「位置と張度」いろいろカタログ

 厳密に言うと“声帯が閉じている=強い声門閉鎖”ではありません。”弱~く閉じている“こともあれば”開き気味だけどしっかり固定されている“状況もあり得ます。今回はこのような声帯の「位置と張度」の色々なバランスを洗い出し、いろいろな発声における正しい声門閉鎖を考えたいと思います。

 まず始める前の大前提として、半不随意筋はんふずいいきんである声帯の開閉をコントロールするのは「呼気こき=吐く息ですので、当然呼気圧こきあつの強さ」も条件に加わります。
 それと、ここまでは声帯の「強度」として説明してきましたが、正確なニュアンスを掴むには”声帯のハリ“だと捉えるべきなので、強度は張度ちょうどと置き換えます。

 声帯の位置と声帯の張度、呼気圧の強度の程度は基本的に以下の3段階とします。

声帯の位置:「開」「半」「閉」
声帯の張度:「弱」「中」「強」

呼気圧強度:「低」「中」「高」

声門閉鎖圧は「位置」と「張度」に分かれる

 それでは行きましょう。全部で12パターンあります。

1.息だけのバランスパターン3つ

 まずは吐息だけの発声です。声帯のひだが開いて、呼気のために通り道を空けます。ベルヌーイ効果の影響を受けないように=気流に吸い寄せられないように、両サイドに避けている状況です。声ゼロなので、ベルヌーイ効果ゼロ、倍音もゼロです。

 声帯の位置は「開」になります。その上で声帯の張度が「弱」「中」「強」の3パターンを検証していきます。

(1)無意識な吐息:位置「開」張度「弱」

 無意識に息だけ吐いている時の声帯は、完全に開いていて完全な脱力状態です。

 最も何の負荷もかからない状態です。

(2)摩擦を強めた吐息:位置「開」張度「中」呼気「高め」

 吐息の音を大きく鳴らしてみてください。

 この時、声帯に強くなった呼気が当たり、摩擦が強くなることで吐息の音が大きく鳴ります。声帯の位置は依然として「開」ですが、声帯の張度が「中」に上がります。「ウィスパーボイス」や「ファルセット」の時に必要になる感覚がこのバランスです。強くなった呼気に飛ばされずに耐えるためには、声帯がそれ相応に“踏ん張る”必要が出てきます。これが「張度」を上げるということです。

「張度」の上げ方

 声帯張度の上げ方は2つです。

①声帯を閉じようとするパワーを上げる

 特にこの(2)のバランスでは、”意図的な声門閉鎖の感覚「あ゙」によって声帯を閉じようとするけど、声帯位置は実際には開いたままにする。開いたままにするためには声帯に息を挟める要領で“になります。

②喉ちんこの引き合いをして「軟口蓋を張る」

 筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」です。喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)に”ハリ“を与えることで、声帯にも”ハリ“が生まれ、歌声の”ハリ“”ツヤ“を作れます。この”ツヤ“こそが倍音です。「喉ちんこを上げる」筋肉と「喉ちんこを下げる」筋肉を喧嘩させます。

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(3)失敗例→力んだ吐息:位置「開→半へ」張度「強」

 (2)の摩擦状態を更に強めようとすると、結果として声門閉鎖が強く入ります。

 声帯は”呼気の逆風に立ち向かって無理くり閉じ始める“ような形になり、過剰な力みが生じます。呼気によって声帯が開く作用と、自己意志によって声帯を閉じるパワーが喧嘩するためです。

2.息混ぜ発声でのバランスパターン4つ

 地声での「ウィスパーボイス」や裏声での「ファルセット」は、吐息成分を積極的に混ぜた“息漏らし声/息混ぜ声”です。成分を簡単に捉えると”息半分:声半分“です。声帯の襞が近づいたところに息が流れるのでベルヌーイ効果が起こり、声帯が作動して声が生まれます。ですが声帯位置はまだ「半」です。気流の影響は半分だけなのでベルヌーイ効果も半分になり、穏やかな声量/音圧になります。生成される倍音量も声帯が離れた分だけ半減します。(半減するからこそこの音色が作れるので半減してOKです)

 声帯位置は「半」で、その上で声帯張度が「弱」「中」「強」の3パターンの組み合わせを検証していきます。

(1)通常の声量:位置「半」張度「中」

 無意識に息混ぜ声を安定させようとするとこのバランスになります。

 呼気圧に負けないような声帯張度が必要です。

(2)声量UPには:張度「強め」+呼気「高め」で位置「半開/半閉」のまま

 息混ぜ声の音色をキープしつつ声量を上げるには、声帯位置はそのままに声帯張度と呼気圧を上げます。

(3)失敗例①:呼気「高」張度「弱」で位置「開きすぎ」へ

 声量を上げたい時に呼気を増やした結果、声帯張度が呼気圧に負けて弱くなると、声帯が開き過ぎてコントロールを失った“息漏れ声”になります。

(4)失敗例②:張度「強」呼気「低」で位置「閉じすぎ」へ

 息混ぜ声のまま声量を上げたい時、呼気圧よりも声帯張度が上がると、声帯位置が「閉」じ、ただの“強めの地声”になります。

 普段から声門閉鎖が強い人はこのバランスに崩れることが多いです。

3.声帯が閉じ気味でのバランスパターン5つ

 声帯位置「閉」声帯張度「強」で力強い発声が叶います。「閉」と言っても呼気の流れのために少しは隙間が空きます。この「少しの隙間」を作る意識があるとベルヌーイ効果は作用しやすくなり、“力強くも軽い発声”が可能になります。もし完全にピタッと声帯が閉じたなら、それは「喉締め声」の傾向が強くなるということです。

(1)充分な声量:位置「閉」張度「強め」呼気「高め」

 一般的に言う「声門閉鎖圧が強い」とはこの状態です。

 ある程度の声量に達しているこの状態から、更に声量アップを図るには「喉ちんこの引き合い」をして倍音成分を増やすことで声量を持ち上げるアプローチを意識します。これ以上声門閉鎖圧を直接いじろうとすると声帯の閉じ過ぎで起こる「喉締め声」になるリスクが上がります。

(2)抑えた声量:位置「閉」張度「弱め」呼気「低」

 ”柔らかい“地声がこのバランスです。

 声帯は閉じているので区分上はチェストボイスに分類されるかと思いますが、”柔らかい“音色が特徴的です。声帯のハリは作っていますが弱めです。呼気圧も弱いので、ベルヌーイ効果も抑えられています。息漏れも極力抑えているので声帯が開き気味になるウィスパーボイスではありません。
 ということはやはり声帯は”閉じているのに弱い“のです。倍音成分は多くありません。

(3)不十分な声量:張度「中」呼気「高め」で位置「閉→半へ」

 シンプルなパワー不足の状態です。

 結果としてどちらかと言えば息漏れ声に傾く人が多い傾向にあります。

(4)過剰な声量:張度「強すぎ」呼気「高すぎ」で位置「閉じすぎへ」

 いわゆる「喉締め声」の状態です。

 解決策の1つはウィスパーボイスですが、呼気圧が強すぎるとそれを声門閉鎖によって抑えつけようとする作用が働くことがあり、これは結構厄介な悪循環になりやすいです。この場合の呼気圧とは厳密には「呼気の速度」のことで、そのコントロールが強く影響します。

(5)ドライな音色:位置「閉」張度「強め」呼気「低」

 声帯張度が強めな中で呼気圧が弱いと、いわゆる「エッジボイス」になりやすくなります。

 これに困っているようであれば呼気圧を増やせば問題解決しますが、エッジボイスはボイトレの各所で有効に働きもしますので、悪いものではありません。この場合の呼気圧とは厳密には「呼気の量」のことで、そのコントロールが強く影響します。


次回予告

 「声門閉鎖圧」のパワーは、今回のテーマにしていた「声帯の位置と硬度」に分かれるように、「呼気圧」のパワーは「呼気の量と速度」に分かれることになります。

 ということで次回は「吐く息のパワー=呼気圧」を「呼気の量」「呼気の速度」に分けて声門閉鎖のコントロールを詳しく見ていきましょう。まずは【VMW連載版】にて概要を説明し、このブログで補完版を追加する予定です。

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