4.1. 自閉スペクトラム症/ASD

4. 発達障害はったつしょうがい

 各発達障害と音楽やレッスンでの関わりも触れておきます。

1. 自閉じへいスペクトラム症/ASD

 まず以下の3つの症状は、最新の分類によって「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」にまとめられました。それぞれ3つの症状は、特定の物事へのこだわり、コミュニケーション力、言葉の遅れの有無、知的障害の有無の4つの観点で分類されていました。ASDの分類に限らず、こういった線引きは時に有益ですが、60点合格のテストで59点だった人を不合格にするような乱暴さ・非情さも持ち合わせていると思います。

自閉症高機能自閉症アスペルガー症候群
こだわりあるあるある
意思疎通とても困難困難やや困難
言葉の遅れあるあるない
知的障害あるないない

アスペルガーの症状

 ここでは主に、アスペルガー症候群の人が「音楽をやる時に困ること」について、実際のレッスンでの出来事を踏まえて書きます。まず、アスペルガー症候群の人の特徴とされているものの中で音楽レッスンと関りが見られる症状は主に以下の5つです。
1、イメージや創造力を働かせることが苦手
2、非言語コミュニケーションが苦手
3、身体を動かすことが苦手
4、曖昧な指示や説明を理解することが苦手
5、反復作業が好きで、臨機応変な対応が苦手
 これらが関わり、困ることは「着実に上達を重ねること」です。「音楽を楽しむこと」はやり方によっては誰にでもできますので、趣味教養が目的の場合は自分の特性に合わせて問題なく楽しむことができます。目的がプロ志望などの確実に上達を求められる場合は、大なり小なり難しさが出てきます。以下にレッスン時の具体的なやり取りの例と見解を示しておきます。これらはあくまでその傾向が強く出ている時の状態を紹介したものです。

アスペルガーと音楽

1、指導「例えば階段を駆け上がるようなタタタッという感じで表情付けて歌ってください」

生徒「声で階段を駆け上がる…?」

→例え話やイメージは想像力を使う作業なのでピンときません。

2、指導「今息の量が強くなってました、ウィスパーの度合いは10段階中3で留めましょう」

生徒「今3なのかな?4なのかな?…」

→具体的な数値を引き合いに出しても、発声のバランスには明確な物差しの区切りがあるわけでないので判断に困ります。これは最初ならば誰しも迷うものなんですが、健常者が慣れるところをアスペルガー症候群の人はずっと迷ってしまう傾向があります。3.18とかどんなに数値を細かく提示しようが、最後の判断は「感覚」というそもそも曖昧な性質のものでの判断になるので難しいのでしょう。
 音楽をやる上で「感覚やイメージ」は切っても切り離せないものです。音楽がそもそも持っているこの曖昧さを排除することはできません。いくら論理的に仕上げようとしても、最後に扱うものは感覚やイメージです。音情報は非言語であり、音を言語化・視覚化することには限度があります。解析ソフトなどを使えば視覚的に引き出して視認することができますが、最終的に演奏する時は自分の脳内でイメージするしかないので、この段階で大なり小なり困難が生じます。

3、指導「今のその声の状態、声帯緩み気味なので腹圧かけて張ってください」

生徒「張る…張るってどういう感覚?…張れてるのかな?…どれくらい張ればいいのかな…?」

 発声作業においては、目に見えない声帯の動きをイメージしながら、目に見えない音情報と照らし合わせて、身体の感覚にも頼りながら微細な調整作業をすること、が求められます。すると、一般的に言われているアスペルガー症候群の人が苦手とされる作業が連発することになります。

4,指導「(ワンフレーズ歌って)それでいいですよ!上手くいっています、確認のためにもう一度どうぞ」

生徒「上手くいってたのかな…もう一度って何をどうすれば?…」

→健常者は「もう一度どうぞ」と言われれば、直前に練習してたフレーズを繰り返せばいいことを「暗黙の了解」で理解します。アスペルガー症候群の人は「さっき歌った何小節目の〇〇から〇〇までをもう一度歌ってみてください」という具体的な指示で理解します。「上手くいっていたかどうか」に関しては、アスペルガー症候群に関わらず、どんな人でも「音楽センスがあるかないか」によって共感してもらえたり貰えなかったりしますが、音情報が苦手なアスペルガー症候群の人はこの傾向が強く出ます。

5、指導「(同じ個所を歌って)今日は声門閉鎖が強すぎるので落としましょう。(翌日)今日は弱すぎるので張りましょう。」

生徒「同じく歌ったはずなのに、違うのかな…」

→同じ作業を反復したいアスペルガー症候群の人にとって、発声のバランスを取る作業は毎回違った調整をする作業が求められるために、混乱しやすくストレスに感じやすいようです。
 「音情報」自体、視覚化できないという点で非常に曖昧なものです。レッスンの時に、理論で説明を受けるところまでは理解が進むものの、発声の手本など他人の声の判断、自分の出している声の判断がその理論と結びつかないために、混乱している状況が良く見られます。発声のバランスや音に対する感覚は、その日の体調や心理状態によって大きく変わるものです。臨機応変な対応が苦手な部分は、こういった時に大きな混乱を生じさせます。

アスペルガー症候群まとめ

 もちろん症状の現れ方はあくまで一般的なものを説明したまでに過ぎませんので、実際には人それぞれで、全て程度問題です。全ての項目でうっすらだけど全部当てはまる人もいれば、当てはまるものと当てはまらないものが極端に分かれる人もいます。手先が器用な方もいるし、感覚と理論が合致して納得できれば着実に上達を重ねている人もいます。それはやってみないと分かりません。独特の感性で音楽を楽しめていることは確かです。ですが、上記の特徴が強く出ている上で、一般的な感覚を習得しなければならない場合・結果を求められる場合は、本人にとっても多大なストレスになる可能性があります。

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