悪魔の言葉「喉/ノド」

「ノド」が開く・「ノド」が絞まる・「ノド」が痛い

 歌をやっていると、こんな言葉はよく耳にするし、口にすることもあるでしょう。ではここで「ノド」クイズ。

クイズ「ノド」はどこでしょう?

「ノド」だと思うところを指差ししましょう。

どこだか分かりましたか?

答え:「ノド」ってこの辺全部のことを言います。
これでは広すぎて問題が出てきます。
どういう問題が出てくるでしょうか?
次を見てみましょう。


「ユビ」って何指ある?片手で5本あるよ?

生徒「先生『ユビ』が痛いです!どこかにぶつけたみたいです」
教師「あら、大丈夫?湿布あげるから貼ってね」
生徒「ありがとうございます、貼りました」
教師「ちょっと!〇〇君、湿布を親指に貼ってるけどさ、腫れてるのは人差し指だよ!」
生徒「え!気が付きませんでした!」
教師「あら…どこの『ユビ』なのか分からなかったんだね…」

 発声のことを「ノド」で説明するということは、こんなにもいい加減なことです。痛いのが「何ユビ」なのかを特定できなければ、対処しようがありません。下のイラストのように「ノド」と言っても色んな場所/器官があります。「ノドが開く」「ノドが絞まる」「ノドが痛い」全部違う場所ですよ。どこなのかが分かっていないと発声トラブルが起こった時に問題を解決するどころか、もっと酷い状態にさせる危険が出てきます。

 このごちゃごちゃしたイラストの中から、最低限以下の4つの「ノド」を言葉として使い分けるようにしましょう。

理解すべき4つの「ノド」

左の書き方は初心者向け/右の書き方は専門的な名称です。

1「声帯せいたい声門せいもん
2「喉ちんこ/軟口蓋なんこうがい
3「喉ぼとけ/喉頭こうとう
4「空間/気道・声道・共鳴腔きょうめいくう


「声帯」「喉ちんこ」「喉ぼとけ」「空間」どこ?

 この4つの器官を参考にしながらクイズをやり直してみましょう。

クイズ「ノド」はどれでしょう?


クイズ①「ノドがまる」時の器官は?

答え:声帯

 声帯を不必要に強く合わせ過ぎると、いわゆる「ノド声」のうち「ノドめ声」になります。

どんな音?

誰かにお腹をパンチされた時を想像して…「う”っ!…/あ”っ!…」

(ここに音声サンプル)

 「ノド声」のもうひとつである「ノド上げ声」はクイズ②の器官が原因になりますが、「ノドが絞まる/ノド声」として区別されずに使われることが多いです。区別しないと原因が特定できないのでちゃんと整理しましょう。

発声に関する「ノド」
⑴一般的に言う「ノド声(ノド絞め声)」は、2つの異なる症状が区別されずに認識されている。
 ①「ノド上げ声」は、喉頭が上がった状態での過緊張で、この「ノド」は「喉頭/外喉頭筋」を指す。
 ②「ノド詰め声」は、声帯が強く閉じ過ぎている状態。この「ノド」は「声帯/内喉頭筋」を指す。
 この2つの症状が混ざると、より「苦しそうな声」「絞まった声」に聴こえる。
⑵声に乗る「ノイズ」は「声帯」で発生するものと「仮声帯」で発生するものがある。


クイズ②「ノドが開く」時の器官は?

答え:空間(喉ちんこ+喉ぼとけ)

補足:喉ちんこと喉ぼとけを動かして調整し、空間を広げる。

 「今日ノド開いてるねぇ~」の誉め言葉は、簡単に言い換えると「空間が広がってちゃんと声響いてるねぇ~」ということ。声が響くための空間を大きくすればそれだけ響くので、喉ちんこは上げて、喉ぼとけは下げて空間(気道・声道・共鳴腔)を広く確保するようにします。

どんな音?

広がりのある、太い・深い・暗い音色

(ここに音声サンプル)

広がりのない、細い・浅い・明るい音色

(ここに音声サンプル)

 この喉ぼとけが上がっていると響きが浅く平たくなります。喉ぼとけを上げないと出せない音色もあるのでこれ自体は問題ありません。でも、喉ぼとけが上がっている状態での苦しそうな声は「ノド上げ声」と言い、①で触れた「ノド詰め声」とあわせて「ノドが絞まる」に含むことがあります。


クイズ③「ノドが痛い」時の器官は?

答え:扁桃腺へんとうせん

 風邪の時などの「ノドの腫れ」のうち、目に見えるはこの部分。健康体の時の発声には関係ないので、4つの「ノド」の器官には含めなくてOKです。炎症を起こしてる箇所が声帯の方へと下がって広がるほど、咳が激しくなったり発声に影響が出てきます。

風邪の時に使われる「ノド」
①風邪をひいて赤くなるのが見える「ノド」は「扁桃腺」の炎症。
②風邪による痛みを感じる「ノド」はだいたいが「咽頭いんとう」の炎症。
③炎症が進むと「喉頭」まで広がり、「声帯」に影響を与えるため声のかすれ等を生む。
④ガラガラ声は直りかけの時に現れるが、これは濃いたんが気道に絡むため。


ここまでのまとめ・確認

1「ノドが絞まる」の器官は?「  」
2「ノドが開く」の器官は?「  」
 →この時上がっているのは?「  」下がっているのは?「  」
3「ノドが痛い」の器官は?「  」


「ノド」を間違えるとどうなる?

 たとえば「ノドが開く」は「空間が開く」と言うべきですが、これを「声帯が開く」と間違えた場合どうなるでしょうか?

「空間が開いている」というのは、広がりを感じる声の響きの「共鳴」が充分であるという状況です。
「声帯が開いている」というのは、声帯が開くことによって「息漏れ」が多い発声の状況です。

 その他「ノド声」も、声帯が閉じすぎた「ノド詰め声」なのか、喉ぼとけが上がって引きった「ノド上げ声」なのか、によって発声状況と音色は全く違うものになります。なので「ノド声」も本当なら次のように把握するべきです。

①ノド声→ノド詰め声→声帯詰め声
②ノド声→ノド上げ声→喉頭上げ声

 このまま区別できずにボイストレーニングを続けると、「間違えたユビに湿布を貼る」ということが高確率で起こります。現に「ノド」の区別ができないその間、発声迷子になってしまう生徒さんの確率はほぼ100%です。発声に使われる身体の部位はほとんどが目に見えないし、声や音も目には見えませんから、気が付きづらい分だけ正しい知識と細かい感覚が必要です。発声を勉強するならまず、悪魔の言葉「ノド」を使うのをやめましょう。

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