呼気圧の「量と速度」のパターンを各声区で解説【VMW版-補完】

声帯動作の完全なコントロールを目指して

 この記事は、VocalMagazineWebにて公開している連載、第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!  の補完記事になります。当該記事は連載第36回で扱った声門閉鎖せいもんへいさの「位置と張度ちょうど(強度)」問題に続いて、呼気こきの「量と速度」問題について解説しています。

声門閉鎖圧と呼気圧は細分される
声門閉鎖圧と呼気圧は細分される

 声帯のパワー=声門閉鎖圧がただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールができないように、吐く息のパワー=「呼気圧こきあつ」も、ただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールが効きません。


呼気の「量と速度」声帯の「位置と張度」

 連載第36回では、以下の4パターンで「呼気の量」と「呼気の速度」、声門閉鎖圧を組み合わせた条件で発声を比較しています。

呼気の「量」と「速度」
(1)多く×速く
(2)多く×遅く
(3)少なく×速く
(4)少なく×遅く

声門閉鎖圧は簡易ver.で
 a. 弱め
 b. 強め

 この記事、補完版では以下のパターンに細分したバランスで考えていきます。

呼気圧のパターン
 量 :「少」「中」「多」
 速度:「遅」「中」「速」

声門閉鎖圧のパターン
 位置:「開」「半」「閉」
 張度:「弱」「中」「強」

 ですが全部のパターンの組み合わせで検証するととんでもない数になるため、連載第36回で登場させた声区せいくごとに声帯の状況を見ていきたいと思います。扱う声区は以下の通りです。

(1)ファルセット、ウィスパーボイス
(2)ヘッドボイス、柔らかいチェストボイス
(3)チェストボイス
(4)ミックスボイス
(5)エッジボイス

 以上の各声区ごとに、それと隣接する派生のバランスも比較していきます。それでは検証していきましょう。


呼気の「量と速度」いろいろカタログ

(1)ファルセット、ウィスパーボイス

 呼気量「多」呼気速度「速」のバランスで、声帯位置と声帯張度のパターン変化を検証します。

「多」「速」-「開」「弱」=ため息

 量「多」速度「速」-位置「開」張度「弱」のバランスだと、息だけが抜けるか、力無い発声になります。逆に言えば“呼気が多くて速いから声帯が開きやすくなる”ということです。呼気だけのため息もあれば、少し声混ざりのため息もありますよね。声門閉鎖圧の程度を見れば前者より後者の方が強めだということです。

「多」「速」-「半」「中」=ウィスパー、ファルセット

 量「多」速度「速」-位置「半」張度「中」のバランスは、”息漏らし声”“息混ぜ声”である「ウィスパーボイス(=地声音域)」と「ファルセット(=裏声音域)」になります。地声でも裏声でも同じようなバランスになる/するべきな点が他の声区と違うところです。上記の『a. ため息』よりも声門閉鎖圧が強くなります。逆に言うと、声門閉鎖圧をそれなりに強めに用意し、呼気を濾過してから出すような動作が必要になります。この声色のままで声量を上げようとする場合は特にそうです。

「多」「速」-「半→閉」「強」=擬似ハスキーボイス

 量「多」速度「速」-位置「半→閉」張度「強」にして声門閉鎖圧をさらに強めると、擬似的にハスキーボイスを作り出すことができます。

(2)ヘッドボイス、柔らかいチェストボイス

 呼気量「中」呼気速度「遅」のバランスで、声帯位置と声帯張度のパターン変化を検証します。

「中」「遅」-「閉」「弱」=あくび声

 量「中」速度「遅」-位置「閉」張度「弱」のバランスは“あくび声”に代表されます。深いあくびをして息が止まった感じがしている時間は、呼気の流れが淀んでゆっくりになっています。気道/声道が広くなりやすくて声も充満しやすい状態なので、共鳴作りの際に有効活用できます。

「中」「遅」-「閉」「弱→中」=柔らかいチェストボイス

 量「中」速度「遅」-位置「閉」張度「弱→中」のバランスである「柔らかいチェストボイス」は、あくび声とほぼ同じと思っていてOKです。でも、無意識なあくび声とは違い、意図的に発声コントロールをするために声帯張度は「中」寄りになります。
 もしこの状態から呼気圧の2つが高くなると、声帯張度が弱いために声帯位置が開きやすくなり、結果としてウィスパーボイスに傾きます。

「中→多」「遅」-「閉」「中」=ヘッドボイス

 量「中→多」速度「遅」-位置「閉」張度「中」のバランスは「ヘッドボイス」が当てはまります。このゆっくりな呼気のスピードを特に活用するのがヘッドボイスの発声です。ウィスパーボイスやファルセットは呼気の流れを前方のベクトルに積極的に流しますが、ヘッドボイスは共鳴の響きを溜めるために後方にベクトルを取り、共鳴腔内/声道内にじわっと循環させる感覚が必要になります。

 呼気のスピードは依然として遅くしますが、柔らかいチェストボイスよりハイエネルギーな発声としてボイトレするべきです。「柔らかチェスト」は固くて悪い地声を改善するための“脱力アイテム”として、「ヘッドボイス」は貧弱な裏声を改善するための“増力アイテム”としての性質を持つからです。
 ヘッドボイスのバランスを保ちながら声量を上げたい場合は呼気量と声帯張度だけを上げます。もしヘッドボイスを最小限の声量で繊細に出す場合は、「柔らかチェスト」と同じバランスを意識します。

(3)チェストボイス

 呼気量「少」呼気速度「速」のバランスで、声帯位置と声帯張度のパターン変化を検証します。

「少→中」「速」-「開」「弱」=ドギーブレス

 量「少→中」速度「速い」-位置「開」張度「弱」のバランスです。犬が夏バテで舌を出しながら「ハァハァ」する呼吸ですが、ボイトレでは腹式呼吸の訓練のために取り入れることができます。“深呼吸に比べたら”呼気量は少ないのでこの分類にしていますが、肺活量とブレスコントロールの訓練を考えれば、なるべく多く扱おうとした方が良いとも言えます。

「少」「速」-「閉」「強」=チェストボイス

 量「少」速度「速」-位置「閉」張度「強」のバランスでチェストボイスになります。今回のチェストボイスの音声サンプルは、『a. ドギーブレス』の呼気の動かし方をそのまま応用しています。強い声門閉鎖圧を用意すれば、アクティブなブレス運動と噛み合って、エネルギッシュな発声にできます。声量アップの公式を覚えていますか?「声量アップ=声門閉鎖圧+呼気圧」です。

 裏声を力強く地声のように聴かせたいミックスボイスも、同じような感覚で呼気を扱うことになります。

(4)ミックスボイス

「多←中→少」「遅→中→速」-「閉→中」「強→中」=ミックスボイス

 見出しのように少し複雑になるのがこの「ミックスボイス」です。ミックスボイスは定義が曖昧で、裏声を地声寄りにするのも、地声を裏声寄りにするのも両方を指します。

 簡単に言うと、裏声を地声寄りにしたい場合は(2)ファルセットや(3)ヘッドボイスの発声バランスを(4)チェストボイスの発声バランスに寄せ、地声を裏声寄りにしたい場合は、その逆を取ればいいことになります。
 「呼気圧」の内訳2つと「声門閉鎖圧」の内訳2つは、自分の今の立ち位置と目的に応じて上記のように調整すればOKです。ですがミックスボイスに限らず、呼気圧も声門閉鎖圧も発声のための材料の一部に過ぎませんので、これらの調整だけでは発声は完成しません。

 特にミックスボイスに関しては話が複雑化しやすいため、ここでは割愛し、「VocalMagazineWeb」連載版の第39回目からスタートする予定の「声区シリーズ」にて詳しく扱いたいと思います。要チェックです。

(5)エッジボイス 

 呼気量「少」呼気速度「遅」のバランスで、声帯位置と声帯張度のパターン変化を検証します。

「少」「遅」-「開」「弱」=ヒソヒソ声

 量「少」速度「遅」-位置「開→中」張度「弱」のバランスは、極力ボリュームを抑えたヒソヒソ話に当てはまります。呼気量も少なくて呼気速度も遅い、声門閉鎖圧も弱い発声は、一番少エネルギーな発声と言えます。張度は「弱」ですが、息だけでなく声が出ているので位置は「開→中」程度になります。

「少」「遅」-「閉」「強」=エッジボイス

 量「少」速度「遅」-位置「閉」張度「強」のバランスは、呼気量も少なくて呼気速度も遅いが、声門閉鎖圧が強めなケースの発声は、「エッジボイス」に代表されます。自転車のチェーンがオイル不足で「カラカラ」と鳴っているような状況に良く似ています。この場合のオイルは呼気ということです。呼気を流せば「スーっと」動きます。

「少」「逆」-「閉」「強」=吸気発声

 量「少」速度「逆方向」-位置「閉」張度「強」のバランスも考えられ、「吸気発声きゅうきはっせい」という方法があります。吸気発声は実際に息を吸って出しますので、「少ない呼気」の究極体のようなものです。実際のボイトレでも呼気を減らしたい時に吸気発声の感覚を用いることがあります。

 以上です:)


次回予告

 「VocalMagazineWeb」連載は、次回第38回で「倍音と共鳴シリーズ」のまとめをお送りし、次々回第39回あたりからはボイトレ最終局面「声区シリーズ」に突入していきたいと思います(‘ω’)ノ。


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